「Sさん、かなり貯め込んでいるらしいよ」
テレビマンは見た目が若く、派手な身なりをしている人が多い。
さすがに、肩からサマーセーターを垂らすようなバブリーな人を見つけるのは今となっては大変だが、それでも個性あふれるファッションや小物で全身を固めてくる人もいる。
中には、仕事に来ていると思えないような服装の人もいるのだ。
まあ、売れっ子になればなるほど稼ぎが多いので、身につけるモノにお金をかける。
そんな中、放送作家のSさんはそうした面を一切見せないのである。
放送作家という商売は日頃は裏方ではあるが、中にはMCやタレント業をこなす、才能にあふれた人たちもいる。
元々、会議のプレゼンなどで自分の企画を流暢に押し通す話術に長けているだけに、人前に姿をさらしてしゃべるなんていうのは朝飯前なのだ。
そして、演者以外にも映画を撮ったり、本を出版したり、イベントやブランドのプロデュースをしたりと活躍の場を広げていく放送作家もいる。
とある会議の後、知り合いのディレクターが冒頭のようなことをつぶやいたのである。
Sさんは、レギュラー番組を何本も持つ売れっ子作家だけ、当然ギャラがスゴいことになっているのは想像に難くないのだが、派手に遊んでいる印象もなく、至ってマジメなキャラクターとして知られている。
ファッションも業界人特有のアクの強いものではなく、さわやかなシンプルさが印象的なくらいで、それほどお金がかかっているとは思えない。
しかも、1日に会議や打ち合わせがいくつも入っているために、食事する時間もままならず、合間にコンビニのおにぎりやサンドウィッチを慌てて口にする忙しさ。
高級なフレンチやイタリアンをゆっくりと食べている時間などない。
ということから、ギャラがほとんど手付かずで、貯金がものスゴい額になっているともっぱらの評判なのだ。
そんなSさんが、守り続けている信条がある。